チュートリアル: 射出成形条件の最適化
課題
プラスチック部品の射出成形ラインで、製品の引張強度が規格を下回るクレームが発生しています。現場の技術者は、原因として以下の3つの成形条件を疑っています。
- Temperature: 樹脂温度
- Pressure: 射出圧力
- CycleTime: 冷却時間
条件を1つずつ変えて試すと、他の条件を固定した特定の状況でしか効果を評価できず、条件間の交互作用も見落とします。3条件を同時に変えた実験を計画し、少ない実験回数で各条件の効果を切り分けます。
実験を設計する
メニューバーから Data > New DoE Design... を選択します。DoE Analysis タブが開き、設計ウィザードが表示されます。
因子と水準を入力する
3つの因子を入力します。各因子に、実験で使う2つの条件をラベルとして入力してください。
| Factor name | Level 1 | Level 2 |
|---|---|---|
| Temperature | High | Low |
| Pressure | High | Low |
| CycleTime | Short | Long |
直交表タイプを選ぶ
直交表は、因子の水準の組み合わせを均等に配置した実験計画表です。どの2因子をとっても水準の組み合わせが偏りなく出現するため、各因子の効果を独立に推定できます。直交表タイプは実験の回数を決めます。L の後の数字が実験回数で、扱える因子の上限が決まっています。
| タイプ | 実験回数 | 因子数の上限 |
|---|---|---|
| L4 | 4回 | 3因子まで |
| L8 | 8回 | 7因子まで |
| L16 | 16回 | 15因子まで |
因子数が上限以下であれば、大きい直交表も使えます。因子数より実験回数に余裕があるほど、ばらつきと効果を区別しやすくなります。
今回は3因子なので3つとも選べます。L4 は4回で済みますが、3因子で4回だと主効果だけでモデルの自由度を使い切り、残差の自由度が0になるため効果の検定ができません。L8 を選ぶと8回の実験になり、残差に自由度が残るため、ばらつきと効果を区別できるようになります。

反復を計画する
直交表は各条件1回ずつの実験計画です。同じ条件を反復して実験すると、条件内のばらつき(誤差)を推定できます。このチュートリアルでは各条件を2回ずつ反復する計画にします。
ウィザードでは1回分の直交表が生成されます。反復分は、実験後にデータを追加する形で対応します。
データセットを生成する
Randomize run order がオンになっていることを確認してください。実験の順序をランダム化することで、時間経過に伴う装置の温度変化や材料ロットの違いなど、実験順序に起因する系統的な偏りを防ぎます。
Preview をクリックすると、生成される実験計画を確認できます。Temperature, Pressure, CycleTime の各条件を High/Low で組み合わせた8パターンが並び、Response 列は空の状態です。この表の通りに実験を行い、各行の Response に測定結果を記入する、という流れになります。

Generate をクリックすると、この実験計画がデータセットとしてプロジェクトに追加されます。
実験を実施してデータを入力する
生成されたデータセットを Data Table タブで開くと、因子列に実験条件が、Response 列が空の状態で表示されます。実験を実施し、結果を Response 列にダブルクリックで入力してください。

このチュートリアルでは、入力済みのサンプルデータを使います。ランチャー画面の Sample Data セクションから Injection Molding をクリックしてください。3因子 x 2水準 x 2反復 = 16行のデータが読み込まれます。
| 列名 | 内容 |
|---|---|
Temperature | 樹脂温度。High または Low |
Pressure | 射出圧力。High または Low |
CycleTime | 冷却時間。Short または Long |
Strength | 製品の引張強度 MPa |
分析を実行する
メニューバーから Analysis > DoE Analysis... を選択します。
- Dataset で
Injection Moldingを選択します - Response Variable で
Strengthを選択します - Factors で
Temperature、Pressure、CycleTimeの3つにチェックを入れます - Model は Main effects only のままにします。まず各因子の主効果を把握し、必要に応じて交互作用を追加します
- Significance Level はデフォルトの 0.05 のままにします
設定を間違えた場合は、ドロップダウンやチェックボックスを変更して Run Analysis をクリックし直すだけで再分析できます。
Run Analysis をクリックします。
主効果プロットで効果の大きさを見る
Main Effects サブタブをクリックし、Show 95% confidence intervals にチェックを入れます。
各因子について、水準ごとの平均強度が信頼区間付きで表示されます。水準間の差と信頼区間の幅から、各因子がどの程度強度に影響するかを読み取ります。
- Pressure: High で平均 41.63 MPa、Low で 34.95 MPa。水準間の差は約 6.7 MPa で最大
- Temperature: High で平均 40.50 MPa、Low で 36.07 MPa。差は約 4.4 MPa
- CycleTime: Long で平均 39.27 MPa、Short で 37.30 MPa。差は約 2.0 MPa
信頼区間が狭いほど推定精度が高いことを示します。水平の破線は全体平均です。

交互作用を確認する
設定パネルで Model を Main effects + all 2-factor interactions に変更し、Run Analysis をクリックします。
交互作用とは、ある因子の効果が別の因子の水準によって変わることです。たとえば「樹脂温度が High のときだけ射出圧力の効果が大きくなる」という状況があれば、Temperature と Pressure の間に交互作用があります。交互作用がある因子ペアは、片方だけを変えても期待通りの効果が得られないため、組み合わせで最適条件を探す必要があります。
Interaction サブタブに交互作用プロットが表示されます。各サブプロットの2本の線がほぼ平行であれば、その因子ペアの交互作用は小さいと判断できます。線が交差するほど交互作用が大きいことを示します。

このデータでは3つの因子ペアすべてで線がほぼ平行です。ANOVA テーブルの交互作用項の p 値でも確認できます。交互作用が有意な場合は、交互作用プロットのセル平均を見て最も応答が高い因子の組み合わせを選びます。
前提条件を確認する
ここまでの分析は、測定値のばらつきが条件間で同程度であることなど、いくつかの統計的な仮定に基づいています。ANOVA Table サブタブの下部に、これらの仮定が成り立っているかの診断結果が表示されます。
均衡のとれた直交表ではこれらの仮定が崩れることはまれで、崩れている場合はデータ自体に明らかな異常が見えることがほとんどです。最初のうちはあまり気にせず、診断の読み方について詳しくは DoE Analysis の前提条件 を参照してください。

結果をもとに判断する
分析から得られたことをまとめます。
- Pressure は Strength に対する効果が最も大きく、High にすると約 6.7 MPa 強度が上がる
- Temperature も High で約 4.4 MPa 強度が上がるが、Pressure ほどの効果はない
- CycleTime の効果は約 2.0 MPa で比較的小さい
- 3因子間の交互作用は小さく、各因子の効果は他の因子の水準に依存していない
交互作用が小さいため、3つの条件を個別に最適化できます。Pressure を High に変更するのが最も効果的で、Temperature の変更がそれに次ぎます。CycleTime の変更は効果が小さいため、サイクルタイムを延ばすコストに見合うかどうかを別途判断する必要があります。
この実験は条件をランダムに割り当てた計画実験なので、実験条件の範囲内で因子と応答の間の因果的な関係を推定できます。ただし推定された効果は、この実験で使った材料・装置・水準の範囲での結果です。実際の量産条件でも同じ効果が得られるかを確認するために、Pressure = High, Temperature = High の条件で確認実験を行うのが一般的な次のステップです。
関連ページ
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